雨が多い街だね-アパレル販売員からの転職者が書くブログ-

元アパレル販売員で今は転職してアパレル業界の中の人をやっている著者がファッションと関係することや関係しないことを書くブログです。

アパレル店舗が知らないとまずい売上分析の基本で脱・売れないショップ(Excelテンプレ付き)

 

▼2020年4月追記

コロナウイルスの流行にともなう緊急事態宣言の発令に合わせて、しばらくお休みしていたブログを再開しています。

こちらの記事を書いたのは2年以上前ですが、今やアパレル業界では倒産を間近に控えた会社が激増。生き残ったブランドもリアル店舗は完全に縮小してECシフトの流れが確定的になりました。「販売員を続ける」という選択肢が限りなくゼロになっている現在、この記事に書いている内容も古い情報になってしまったと感じています。

ということで、現在の状況について書いた下記記事も、合わせてご一読ください。

 

【必読】緊急事態宣言の発令に寄せて

 (追記ここまで)

 

売れないアパレルショップに足りないのは売上分析を使ったPDCA

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私は元々、大手のアパレルブランド2社で合計約10年、販売員をやっていました。接客メインではなく、店舗のVMDと、副店長としてのマネジメント業務をガッツリやって来たので、数字を使ったPDCAサイクルを常に回しながら日々の数字の組み立てと、改善のアクションを行ってきました。

そもそもPDCAって?

PDCAは「Plan・Do・Check・Action」のそれぞれの頭文字を並べた言葉です。それぞれの意味は、以下のように言われています。

Plan:計画を立てる
Do:実行する
Check:評価する
Action:改善する

「PDCAサイクル」という言い方もされます。P→D→C→Aときて、Aからまた次のPに進む。このサイクルを「クルクルと回し、継続的に改善する」ことが大切だと言われています。

引用元:https://tachikaeru.com/

 

数字から問題点を見つけ出して改善案を生み出す、と言うのはアパレルや小売業に限らず、すべてのビジネスで行われていることですが、アパレル業界で働く人は本っ当ーに数字に弱いです。

これには、店長・副店長クラスでもエクセルを使った表計算がまともにできないとか、このご時世に店舗にパソコンが常備されてないとかって言うITリテラシーの低さも関係しています。

実は私の場合も、アパレルから転職するまでは実はエクセルがほとんど使えませんでした。ただ、ブランド側がかなり細かく数字分析ができるエクセルのフォーマットを全店共通で用意していたため、ほぼ入力だけで良かったので、恵まれていましたね。

 

売れない原因を「スタッフのアプローチが遅い」で片づけるのはもう止めませんか?

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数字の分析ができていないショップがやってしまいがちなのが、感覚的・主観的に分析をしてしまうことです。売上だけを見て「スタッフのアプローチが遅かった」と言う、お決まりの言葉を未達要因として終礼でスタッフに伝えている店長・副店長がなんと多いことか…。

それってただの精神論になってませんか?だって、それ言っても次の日に売上が回復してないでしょ?

 

根拠のない精神論がスタッフのモチベーションを下げている

さらに言えば、この手の精神論はスタッフの心に全く響きません。これ相当大切なので、言い方を変えて繰り返します。

あなたが「アプローチが遅い」って叱るたびにスタッフのやる気を削いでいます。そして、やる気が削がれたスタッフは、そのうちあなたの言うことをまともに聞かなくなります。しかも、表面上は言うことを聞いているフリをするので、あなたは自分の言葉が届いていると勘違いしてしまいます。

こうなった店舗は間違いなく売れません。なぜなら、誰もが手を抜いているのにあなただけが気づいていない状態だから。

 

スタッフの心に響かないのは数字の根拠が無く論理性に欠けているから

ちょっと叱ったぐらいでやる気を無くすとかふざけるな、と思うかもしれませんが、なぜ、あなたの言葉がスタッフには響かないのか?を考えてみないといけません。それは、フィードバックの内容に数字の根拠が無いからなんです。

今の若手スタッフは論理的でないものを徹底的に嫌がります。一昔前のように、感情をぶつけ合いながら情熱で引っ張っていくようなマネジメントのスタイルは通じないと思ってください。そんな彼ら彼女らを納得させるのは、数字です。明確な数字の根拠があった上で指導される分には、腐ることもなく納得してくれるんです。

 

 ……で、ここまでが前置きです。

それでは、ここからは実際に数字分析の考え方を説明していきます。

とりあえず先に、今回私が作った、売上分析用のエクセルのテンプレートを掲載します。ブランド側が用意していない場合は活用してくださいね。

uriage_hyou.xlsx - Google ドライブ

 

一応エクセルの解説

  • 2017年8月から2018年7月までの1年間の分を月ごとにシートに分けてます。
  • 以降は、sampleシートをコピーして自作してください
  • 緑に塗っているセルに入力したら他は勝手に計算してくれます
  • とりあえず目標と昨年実績は月初には入れておいて、あとは日々の実績を閉店後に入れていってください。
  • 週次の数字は拾えません。コメ欄かメールかtwittterでリクエストがあれば時間があるときに作ります。

 

アパレル販売員が押さえておかないといけない分析の指標とは

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まずは、ざっと挙げていきます。 

  1. 売上:ショップの売上
  2. 来店客数:ショップに来店した客数※
  3. 販売客数:購入に至った客数の合計
  4. 販売点数:購入に至った商品点数の合計
  5. 客単価:購入に至ったお会計額の平均(売上÷販売客数または商品単価×セット率)
  6. 商品単価:購入に至った商品単価の平均(売上÷販売点数)
  7. セット率:購入に至った商品点数の平均(販売点数÷販売客数)

※2.来店客数は、恐らく把握していない店舗の方が多いかと思いますが、店の出入り口に来店カウンターが付いているブランドだと、来店客数をリアルタイムに把握しています。これがあると無いで、分析できる精度が、大げさでなく10倍ぐらい変わります。俗にCVR(コンバージョンレート)と呼ばれる<購入率>が算出できるためです。

来店カウンターを導入していないブランドの方が多いと仮定して、今回はこの項目は無しで話を進めますが、片手落ち感は否めません。もしも、本社やデベロッパーに対してカウンターの設置を交渉できる権限を持っている場合は、絶対に提案した方がいいです。

 

基本的に、日々の分析はこれらの数字を、目標対比昨年対比前日対比の3つの対比項目を基準に、比較しながら行います。

では、ここからは売上・来店客数を除いた各項目の解説と、代表的な改善策を具体的に説明しますが、その前に下の図を見てください。

 

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 売上は来店客数・購入率・客単価の3要素から成り立っている。客単価は商品単価とセット率から成り立っている。

 

これは、売上の構成要素を分解していった図です。ブランドによって各項目の呼び名は変わりますが、恐らく大手であればほとんどのブランドで使用されている考え方です。

では、詳しく解説します。

 

売上は来店客数×購入率×客単価でできている

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売上を作る3代要素として、来店客数購入率客単価があります。これら3つを掛け算すると売上とイコールになります。

例)ある日のA店の実績

客数1,000(人)×購入率5.5(%)×客単価8,000(円)=¥440,000

 

仮に、この中のどれかを2倍にすれば売上も2倍になるわけです。そりゃそうだ。

来店客数を店舗レベルでコントロールするのは難しいため、店舗の取り組みのほとんどは購入率と客単価をどう上げるかに終始すると言っても過言ではありません。

 

VMDでコントロールしやすい指標=購入率(転換率・CVR)

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購入率は「来店したお客様が購入に至った割合」です。言い方を変えれば「お客様をレジに送り込むことができた割合」。ブランドによって転換率と言ったり、CVR(コンバージョンレート)と言ったりします。

パーセントで表されることが多く、例えば100人中8人が購入したら、購入率8%となります。2000人中50人が購入したら、購入率2.5%となります。

 

購入率が高い=来店した多くのお客様に対してサービスを届けられている

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購入率が高いと言うことは、それだけ高い割合のお客様がお店の商品やサービスに満足して帰ってくれた、と言うことになります。

ブランドの規模や客層にもよりますが、ショッピングモールに入るぐらいの規模のブランドであれば、接客よりもVMDでコントロールしていく方が効果的な指標です。接客のアプローチやクロージングをいくら早めたところで、来店したお客様全員をカバーすることは非現実的なためです。

一番わかりやすいのは、低単価で買いやすい商品をお店の主導線に置くパターン(ちなみに、同じ低単価商品をレジ付近に置くと、セット率と客単価アップのためのVMDになりますが、この違いは分かりますか?)。

 

やっぱり来店カウンターが無いアパレルブランドは致命的

先ほどから何回も説明していますが、来店カウンターを導入していないと来店客数が計測できません。来店客数を計測できないと購入率が算出できません。これはPDCAを回していく上で致命的です。購入率が測れない以上、冒頭で言っていた「アプローチが遅すぎる」を実証する数字は、いよいよ存在しないことになってしまいます。もし仮に、売上を落とした要因が本当にそうであったとしても、です。

 

どうしても難しければモール自体の客数をデベロッパーに共有してもらう

情報の精度はかなり落ちますが、ショッピングモールに入っているショップであれば、モール自体の来店客数をデベロッパーに教えてもらうと言う方法もあります。理論上は、モール自体への集客が多い日は、自分のショップにも来店が多いはずなので。

ただ、例えばファッションに興味が無い人を多く集めるイベント(例:おば様向けタレントのインストアイベント、アニメ映画の公開初日など)がモール内で開催されたときに、購入率が極端に低くなる、と言ったこともあり得るので、参考数値程度の信ぴょう性しかないことは留意しなければいけません。

 

少し話がずれましたが、図の説明に話を戻します。次は客単価について。

 

接客で大きく向上させることができる指標=客単価

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客単価は恐らくどこのショップでも毎日追いかけている数字かと思います。

客単価は「購入に至ったお客様が払った平均金額」です。いやらしい言い方に変えれば「お客様に使わせた金額の平均」となります。客単価を構成しているのは商品単価とセット率ですね。

一般的には客単(きゃくたん)と略して呼ばれることが多いです。

 

例)3人の購入客が、それぞれ¥1,000、¥4,000、¥10,000のお会計の場合

(1,000+¥4,000+¥10,000)÷3=¥5,000

 

客単価が高い=購入に至ったお客様に深い満足度を与えることができた

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客単価が高いと言うことは、購入したお客様にお店の商品やサービスに深く満足して帰ってもらえた、と言うことになります。

客単価はVMDでコントロールすることもできますが、客単価を上げることと購入率を下げることは、ある程度ニアリーイコールになります(極端な話、ただ客単価を上げたいだけなら、店の低単価商品をすべてストックに隠せば上がります。購入率や売上がどうなるかは別として。ここは説明しだすと長くなるので、割愛)。

そのため、VMDでの客単価アップは購入率の項で説明したような「レジ付近に低単価商品を置いてプラス1の提案」程度に留める場合が多く、どちらかと言えば接客メインで改善していくことが多い指標になります。

セットの提案や、いくつかの商品を選択肢として提示するときに高単価の商品に促すのもそうです。低単価商品を見ているお客様よりも、高単価の商品を見ているお客様を優先してアプローチするのもそうですね。

  

客単価は商品単価とセット率に分解して考える

客単価を向上させるためには、ここからさらに分解して見ていかないといけません。客単価が低い要因は、商品単価、セット率のどちらなのか?

つまり、高単価の商品が販売できていないことが問題なのか?セット売りができていないことが問題なのか?

意外とここまで掘り下げて見れている人が少なくて、なんとなく「客単価を上げるためにプロパーを積極的に売ろう」で済ませている場合が多いです。「商品単価を上げることで客単価を上げる」ことが目的であれば間違いではないのですが。。

客単価の改善のために、商品単価orセット率のどちらに重きを置くのかによって店頭で取るべきアクションは違います。数字から、問題点がどこにあるのかを見つけられるようにならなければいけません。

 

では、最後に日々の数値が良いor悪いの判断をするために必要な、比較対象の話を軽くして終わります。

 

目標対比・昨年対比・前日対比。それぞれの使いどころ

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その日の実績を、上記3つの対比項目の中のどれと比較して分析するかって言うところには結構センスが出ます。もちろん、3つの項目すべてとの差額や達成率はチェックするべきなのですが、実際に翌日のための改善アクションを考えるにあたっては、そのどれかに絞らないといけません。

 

目標対比は基本となる指標

目標対比は当然ながら、最も基本的な指標です。さすがに月次・週次・日次の売上目標を立てていないショップはないかと思いますが、それ以外の項目に対しても目標設定ができているでしょうか?

もしできていない場合は、とにかく設定してください。最初はある程度当てずっぽうでもいいですし、同じブランドの他店から情報をもらっての流用でもいいです。

売上目標に関しては、絶対に目指すべき数字ではありますが、社内政治によって上司から高めの数字を押し付けられがちでもあります。現実とかけ離れた数字を追いかけさせても、スタッフのモチベーションは下がるだけなので、月の前半終了時点で実現不可能だと判断したら、「上司から怒られるのが店長・副店長の仕事」と割り切って、月次目標達成はきっぱり諦めましょう。週次・日次は引き続き追いかけてください。

また、販売客数・販売点数・商品単価・客単価・セット率に関しては、よほどの乖離がない限りは接客の仕方やVMDで改善していけるので、上記分析をしつつ、常に改善を繰り返しながら追いかけ続けてください。

 

昨年対比は最もリアルな指標

一般的に昨対(さくたい)と言われるやつで、比較対象としては最も実感に近く、かつリアルな目標として据えやすい対比項目です。

特に、毎年の年間スケジュールがしっかり決まっているブランドであれば、本社が昨年とイベントスケジュールを合わせてくるので、「昨年のセール初日と今年のセール初日」などの対比も容易でしょう。

昨対を使うにあたって、気を付けないといけないのは以下2点です。

 

1.日付で合わせるのではなく曜日で合わせる

例えば2017年7月1日は土曜日ですが、2016年7月1日は金曜日です。日付で合わせて同じ7月1日同士を比べても意味がありませんよね?平日と土曜日なので。

「7月第一週の土曜日」と言う合わせ方で考えましょう。

 

2.イベント内容が全く違う場合は一切参考にしない

例えば、一年前はやっていなかったファミリーセールを今年は開催するとします。その場合は昨対と比較することに意味がありません。この場合の昨年実績は、完全に無いものとして扱いましょう。

 

前日対比は使いどころを考えて

よくある前日対比を用いるパターンとしては、土曜日が売上・内容ともに目標対比や昨年対比を大きく上回ったときに、翌日の日曜には、より高い目標として前日対比を設定するパターンでしょうか。

まあ、目標よりも高く売れたって言うのは、そもそもの目標設定が甘すぎたんじゃないかって話にもなりかねませんが、その時点で最もリアルな数字が前日の実績と言うことにはなるので、スタッフのモチベーションも喚起しやすいです。「去年の自分を越える」よりも「昨日の自分を越える」の方が分かりやすいですし。

 

 

数字を見るだけではなく、何を読み取り、どんなアクションを行うのか?がすべて

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と言うことで、かなり長文になりましたが数字分析で見るポイント的なものを解説しました。

ただ、数字から問題点を見つけても、それを店頭でのアクションにどう繋げるのか?は結局人の頭でしか考えられません。商品単価が低いとして、どのアイテムを翌日の強化アイテムにするのかを選ぶかによって結果は変わります。

また、今回のお話には、売れ筋アイテムなどの商品視点の分析項目は一切加味されていません。実際には、今回説明した数字に「何が売れていて何が売れていないのか?」と言う、商品視点の分析が加わって、初めてアクションに落としこめます。

そっちはそっちでまた時間があるときに書きたいのですが、かなり長くなるので今回は一旦、基礎となる分析項目のお話にとどめておきます。

 

今まで、数字面の分析を行わずに感覚的にやってしまっていた店長・副店長は必ず数字から改善点を見つける癖をつけましょう。大手は確実にどこもやっていることです。資金力やマンパワーで勝てないブランドが生き残るためには、戦略の強化しかありません。その第一歩として是非、導入してみてください。

それでは今日はこのあたりで。

 

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