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雨が多い街だね-アパレル販売員からの転職者が書くブログ-

元アパレル販売員で今は転職してアパレル業界の中の人をやっている著者がファッションと関係することや関係しないことを書くブログです。

砕け散るところを見せてあげる/感想/解説/考察~生きること死ぬことを描いた竹宮ゆゆこ意欲作~(記事後半にネタバレあり)

 

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『とらドラ!』などで有名な竹宮ゆゆこの新著『砕け散るところを見せてあげる』を読了しました。2016年に出版された小説の中では、話題の一冊と言える作品なので、今更と言う感じも無くもないですが。。

とは言え、発売から2カ月ほど経った今でも、大抵の本屋では平積みでプッシュされていて、まだまだ鮮度を保ちつつ売れ行きも好調であろうことが伺えます。

 

前作『知らない映画のサントラを聴く 』からライト文芸に、連載中の『あしたはひとりにしてくれ』から一般文芸に進出し、意欲的な活動を続けている竹宮ゆゆこですが、この記事では、作品のテーマ的な部分や、代表作『とらドラ!』、オマージュを捧げているであろう『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』との関連性などに触れつつ、『砕け散るところを見せてあげる』の感想や解説を書いていきます。 

 

  

『砕け散るところを見せてあげる』は、作品を楽しむ上で、ネタバレの有無が大きなウェイトを占めます。この記事では、後半にネタバレありの感想を書いています。未読の方も途中までは読んでもらって問題ありません。ただし、代表作でありアニメ化もされている『とらドラ! 』に関しては、記事前半からネタバレ込みの内容が入ります。たぶん、この記事を読む人で『とらドラ!』を読んだり観たりしていない人も少ないかと思いますが、これからネタバレなしで『とらドラ!』を楽しむつもりの方は閲覧をお控えください。

 

未読の人が読んでもOKな『砕け散るところを見せてあげる』の説明

 

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本の裏表紙やamazonなどに書かれているあらすじは、ちょっと販促臭い、と言うか、中身が気になった読者に買わせよう感が強くて微妙です。なのであくまで私なりの説明であらすじを説明すると。

 

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主人公・濱田清澄は受験や高校の卒業を間近に控えた冬の日に、不思議ちゃんな1年生玻璃(はり)が陰湿なイジメを受けている現場に遭遇し、玻璃を庇う行動に出る。

しかし、玻璃は清澄の行動を強く拒否。それでも玻璃を放っておけない清澄は、玻璃を陰から見守り続ける。ある日、とある決定的なイジメ現場に遭遇することで二人の関係性は変化していくーー

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と言う感じでしょうか。

ここに、物語の序盤で提示される問いの答えは何か?と言う謎解き的要素と、小説のとある構造上の仕掛けが加わると言った感じです。

※ただ、実際に読んでみると、この2点は作品の善し悪しを判断する上で、さほど重要ではなかったかな、と私は思いました。上述した裏表紙のあらすじや、帯文などでこの部分をかなり押しているのは、あくまで販促の要素として押しやすいからでしょう。

 

※ここからネタバレありです。未読の方でネタバレを避けたい方は以降の文章は読まないでください※

 

 

 

私の『砕け散るところを見せてあげる』読後感想/解説/考察

まず、好き嫌いで言うと圧倒的に好きな作品でした。

竹宮ゆゆこ作品らしく、軽妙で読みやすい地の分、クスリとできる軽妙な会話、魅力的なキャラが揃っていて、テーマ自体はかなり重い作品なのですが、とにかく読み進めやすかったです。

個人的には、清澄&玻璃の主人公ペアやクラスメイトたちは勿論、清澄の母とクリーニング屋のおばちゃんが特に好きなキャラでした。詳しくは次回の記事で書きますが、竹宮ゆゆこ作品に不可欠な<善人側の大人>の役割をキッチリ果たしてくれました。

 

また、これはかなり好き嫌いが分かれるであろうポイントなのですが、物語の部分部分で、直接的表現をあえて避けて、純文学的な比喩表現を使用している作品です。なので、人によってはその該当部分が、「何を言っているのか分からない」的な感じになるかも。

ただ、例えばUFO、天球、赤い空、赤い嵐などのメタファーが何を表すのか?など、読者の解釈にゆだねる部分があるからこそ、この作品はラノベでなく、ライト文芸として出版する意味があるわけで、作者の素晴らしい挑戦に感嘆しました。

 

誰もが語りたくなる『砕け散るところを見せてあげる』終盤の展開

 

恐らく、この作品を読んだ人が最も語りたくなるであろう、玻璃の父親との対決シーン~二人の再会と結婚~清澄の死と息子の誕生(叙述トリックのネタばらし)と言う終盤の展開については、概ね好意的に捉えています。

少し逸れますが、取返しの付かない罪(玻璃の場合は自己防衛的意味合いもありますが)を犯したヒロインが、過去を捨てて絶望の中で新たな人生を歩む。そして再生していくと言う流れには、押見修造の漫画『惡の華』の物語後半の展開を重ねたりもしました。

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ただ、玻璃が街を離れてからの展開はかなり駆け足でしたね。あくまで一案としてですが、例え100ページ増えてもいいから、その後の展開もしっかりと描いてほしかったかなと思いました。

  

『砕け散るところを見せてあげる』のテーマや作者が描きたかったことは何なのか?

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『砕け散るところを見せてあげる』にはいくつかのテーマがあるかと思うのですが、私なりに簡単に言ってしまうと、「生きることと死ぬことかなと思いました。

 

詳しく解説し始めると長くなってしまうので、かなり省略して書きますが。

『砕け散るところを見せてあげる』では、水の中から人を救い上げると言うシーンがいくつかあります。 

 

  1. 玻璃の祖母(結果的には母でしたが)の入ったトランクケースを引っ張り出すシーン
  2. 清澄が命と引き換えに増水した川から玻璃を救い出すシーン
  3. ここは自信ないですが、真っ暗なトイレに閉じ込められた玻璃を清澄が救い出すシーンも、意味合いとしては同様?

  

まず、これらが何のメタファーかと言うと、母親の子宮の中から赤ちゃんを取り出すことと掛けているのではないかと。

1.2.3に共通するのは、すべてに水が絡んでくるのですね。1.は沼の水、2.は増水した川の水、3は玻璃に掛けられた水道水だったりトイレの水だったり。

で、これらの水は羊水のメタファーなのなと思っていて。

 

なんじゃそりゃ?と思われる方もいるかもなのですが、事実、2.では羊水(=川の水)の中から玻璃を救い出すことで、命(=息子)が生まれるわけです。※付随して、このシーンには、"誰かが死ぬことで誰かが生まれる"と言う、等価交換的な、円環構造的なテーマも垣間見えます。前作『知らない映画のサントラを聴く 』はもろ円環構造的テーマの作品でしたので、竹宮ゆゆこの作家性の一つなのかなと思ったり。

 

このシーンの一連の文章が最高で、以下抜粋

 

 

俺はどこか遠くへ為す術なく流されながら、UFOがついに俺の空から墜落していくのを見ていた。

(中略)

天球の傷口からまた赤い血が降るのかと恐れたが、そこから流れ出したのはーー玻璃、ほら、見てごらん。

すっごい銀河だ。

キラキラと輝いて大きな渦を巻いている。星の子供たちが楽しそうに次々に落ちて、透明の雨になり、すべてを洗い流していく。

気が付くと天球の傷口は俺の傷口になっていた。無限に膨らんで形を無くした俺の身体の内側から、どんどん銀河が流れ出していく。俺の命を託した星の子もどんどん降り注ぐ。あらゆるものにどんどん染みていく。

そうして俺は、玻璃が目にするすべてのものになる。カーテンにもなる。本にもなる。壁の傷にも、コーヒー豆にも、歩道橋にも、袋麺にも。太陽にも、月にも、目には見えなくとも確かに在る遠い星々にもなる。そうして玻璃を、愛し続ける。永遠に愛し続ける。

 

"俺の命を託した星の子"と言う表現は、もろ男性の精子のメタファーですし、その星の子たちが織り成す"銀河"が出てきた場所が"天球"と考えると、天球=子宮あるいは女性器なのかなと考えています。

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※ちなみに、もう一カ所"天球"が出てくる箇所は、玻璃が父親殺しを行うシーン。以下は深読みしすぎかもしれず、読解力のある方にフォローしてもらいたい箇所でもあるのですが。ここで、玻璃の天球はパックリと空いた大きな傷跡から赤い血を出す、との描写があって、私はこれが「玻璃が父親から性的虐待を受けていた」ことを表しているのでは?と思いました。

父親が死んだときに落ちてきたUFOによって傷ついた天球からは赤い血が出て、清澄が死んだときに落ちてきたUFOによって傷ついた天球からは銀河が流れ出す。

 

また、この「生きることと死ぬこと」と言うテーマは、生物学的な意味合いだけではありません。

作中で分かりやすく書かれている部分ですが、父親殺しの後に「玻璃」と言う名前を隠して別の人間として生きていた、と言う展開が「玻璃を殺した」とも読み取れるように書かれています。また、その後清澄が死ぬ前に玻璃の名を呼んだ場面や、玻璃が息子に自分の本当の名前を語る場面は、「玻璃の再生」とも言えるでしょう。

 

とかく、全編に渡って様々な形での生と死が描かれている、と言う印象を受けました。

 

今度アップする記事の後編では、少し違う面からこの作品を解説します。

・『砕け散るところを見せてあげる』は『とらドラ!』を意識的に下敷きにしたセルフアップデートでは?

・同じく『砂糖菓子の弾丸を』オマージュした意図とは?

と言うあたり。

 

それでは。

 

ネタバレを経ても今から読みたい方はコチラから

 

ライト文芸に挑んだ意欲作

 

言わずと知れた歴史的大傑作。

 

アニメ化以降、多田万里のネタキャラ化がすごいですが、もちろん傑作です。

 

当サイトでの小説に関する過去の記事はコチラです

rakka.hatenablog.jp

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