VMDの仕事のやりがいや厳しさとは?大手アパレルブランドのVMD経験者が解説!
アパレルショップの仕事でVMDが一番好き!
私はもともと、アパレル販売の仕事を10年ほどしていました。 キャリアとしては、全国展開の某セレクトショップでヒラとして、ファストファッション系のSPAブランドでは店舗付きVMDメインで副店長として勤務しました。
当時を思い出せば、アパレル販売の仕事は多岐にわたりますが、私はダントツでVMDの仕事が好きでした。
ただ、販売員の中には「接客は得意だけどVMDは苦手」といった人も多いです(もちろんその逆もありますが)。特に、昇進や配置換えなどで、ある日急に「じゃあ今度からVMDもやってね」と上司から告げられて、絶望に陥った経験のある人も多いのではないしょうか 笑
今回は、私がVMDをやっていたときのことを思い出しつつ、これからアパレルVMDの道を歩む初心者さんや、スキルアップに悩んでいる経験者の方向けに、ネットでは情報を得にくいVMDの仕事内容について解説できればと思います。
具体的なスキルアップ方法や作例などは他に譲るとして、この仕事のやりがいや厳しさなどを、経験者の立場から説明します。
なお、前述したように私はアパレルのセレクトショップ(たぶん皆さん一回は入店したことがある程度には有名です)、ファスト系ブランド(こちらも同じく)の2ブランドの経験から語ります。つまり、商品数もフロア面積もでかいブランドのVMDであることを前提でご覧ください。
とはいえ、ラグジュアリーブランドであろうと、化粧品屋であろうと、スーパーマーケットであろうと、VMDの基礎は同じなので、もし他分野のVMDをされている方でこのページにたどり着いた方も参考になるんじゃないかと思います。
アパレル販売員なら分かっておきたいVMDとは何か
まずは基本中の基本であるVMDという言葉の意味や定義から入りましょう。
VMDの意味
VMDはVisual Merchandising(ヴィジュアルマーチャンダイジング)の略です。マーチャンダイジングというのは、日本語に直訳すれば「商品計画」となりますが、ここは広義の販売促進だと捉えれば問題ないです。
つまり、VMDとは視覚的な面からの販促を意味します。
店舗においては、ショーウインドウ作成、ディスプレイ作成、什器のソーニング、商品の陳列などを行って、お店の売上をアップしていきます。
もちろん、売上をアップさせるためには、VMD変更を行ったことでどのように数字が変化したのか?を見ながらPDCAを回していく必要があります。
本社VMDと店舗付VMD
VMD職といっても幅広く、ブランド全体のヴィジュアルや打ち出し商品の方向性を決める本社VMDと、本社から落ちてきたVMD指針を店舗で表現する店舗付きVMDに分かれます。
世のアパレル業界人で、人数として圧倒的に多いのは後者の店舗付きVMD。今回は、主にこの店舗付きVMDのお話をしていきます。
店舗付VMD担当とは
所属スタッフ数が10人を越えるぐらいの中規模以上のアパレル店舗では、店舗内の各業務に対して担当制を敷くことが多いです。ストック担当、インポート担当、SNS担当などなど。
そのうちの一つに、VMD担当またはレイアウト担当があります(この二つは基本的に同じ意味で使われることが多いため、当記事では表記をVMD担当で統一します)。
VMDは商品知識・ヴィジュアルセンス・数値管理能力などが必要とされるため、暦の長いスタッフや店長・副店長クラスが行うことがほとんど。新人や中堅がアシスタントとして付くことも多いです。
ちなみにVMDというと、ディスプレイやウインドウの作成など、美的感覚が最も必要な職種と思われがちですが、一般的なアパレルブランドの店舗付きVMDにとっては、売上をあげるためのアクションの立案だったり、数値管理能力が最も求められます。
このあたり、アパレルで働いたことがない人が適当に書いているネット情報では、ちゃんと説明されていないので注意してください。
さらに余談。VMD用語は勝手に覚えます
「VMD」ってググったら出てくるサイトでは、なぜか判を押したように「VP」「PP」「IP」という用語の説明が、やたら丁寧に書かれているのが不思議でしょうがないです。
そりゃ代表的なVMD用語ではありますが、そんなに大切ですかね?ていうか、VP/PP/IPなんて、知らなくても仕事上はまったく困りません。だって使わないから。
普段店舗で働いてて、スタッフ同士で「VPがどうたらこうたら」なんて話さないですよね。「ウインドウ」で通じます。「PPが」じゃなくて「フェイスアウトが」とか「ディスプレイが」でいいですよね。
VMD用語で最低限知っておけばいいのは
- フェイスアウト
- スリーブアウト
- ボディ
- トルソー
- ゴールデンスペース
- 三角構成
ぐらいじゃないですか?他は、やってるうちに勝手に覚えます。
あと、この手の用語はブランドによってローカルな呼び方があるから、覚えても意味がないです 笑
VMDの仕事のやりがい
VMDの魅力にはまった人なら頷いてもらえるであろう、この仕事のやりがいを解説します。
数字に直結。個人のスキルやひらめき次第で接客以上に販売促進を行える
私は完全にここに魅力を感じてVMDの仕事をしていました。
仮にフロアスタッフが5人いる店舗の、1日の売上が100万円だったとします。もしも一人が死ぬほど接客のスキルをあげて頑張ったとして、売上を110万円にすることはできても150万にするのは至難の業です。
でも、VMDがハマれば200万円にすることだってありえます。※もちろん、販売してくれるスタッフがいるからこそ、というのは前提として。
初売りを想像してもらえればわかりやすいですが、VMDは売り上げや客数の規模が大きくなればなるほど、影響力を増します。逆に、スタッフの人数を大きく越えるような来店があったとき、接客の影響力は低下します。
大きな売り上げを動かしたい、という気持ちを持っている人にとっては、VMD担当になることが近道といえます。
ディスプレイやウインドウなどを作るクリエイターとしての喜び
VMDといえば最初に浮かぶのが、ショーウインドウやディスプレイの作成です。
店頭接客とは全く違う、クリエイターとしての資質が問われる分野であり、時にはミリ単位の調整で完成度を上げていく、非常に細かい作業でもあります。
本社から落ちてくるサンプルを再現するだけなら、時間さえかければ誰でもできますが、その場にある商品やプロップを使って、アドリブで何かを作る作業は完全に創作です。ボディのコーディネートを考えるのだってそうです。
また、クリエイティビティが必要なのは、それらVP/PPだけではありません。
例えば什器のアイテム陳列も創作の一環です。
ちなみに、私はよく友人などから「VMDやってたから手先が器用なんでしょ?」と言われますが、めちゃくちゃ不器用です 笑
ここは経験者なら頷いていただけるかと思いますが、VMDは全般的に手先の器用さよりも空間把握能力の方が大切かなと思っています。「この配置は違和感がある」「ここの距離感が不自然」など、どこがどう間違っているのかを感じ取れないと、いくら手先が器用でも意味がありません。カラーセンスも同じくです。
VMDには絶対的な正解はなく、強いて言えば売り上げが取れるものが正解ではありますが「大多数の人が気持ちいいと感じる間の取り方」みたいなものは確かに存在するので、そこが理解できるかできないかが、大切じゃないかと思っています。
アパレルVMDの仕事の難しさ・辛いところ
ここからは逆に、VMDの辛いところについて。
楽しいばかりじゃないのはどの仕事でも同じですが、VMD特有の厳しさとはどんなところでしょうか?
売るVMDと魅せるVMDのバランス感覚が必要
上でクリエイター云々と書くことと相反してしまうのですが、VMD担当は芸術家ではありません。店舗やブランドの売り上げをあげるためのセールスパーソンです。あくまで目的は売り上げをあげることです。
もしかしたら、ラグジュアリーブランドやコレクションブランドの本社VMDなどであれば、アーティスト的な役割が期待されるかもしれませんが、大多数のブランドの店舗付きVMDはそうではありません。
VMDをやっていると「こうした方が売れる」という気持ちと「こうした方が格好いい(ブランディングを高められる)」という気持ちのせめぎ合いが必ず起こります。
これを経験したことがないVMDパーソンはいないはずです。
例えば、こんな経験はありませんか?
- シーズンコンセプトとずれたアイテムが売れているので、世界観を崩してでもエントランスで打ち出す必要がある。
- ボディに強化アイテムを着せるために、ボディのコーディネートを妥協しないといけない。
- セール期はディスプレイをすぐに崩されるので、棚上がスカスカになるけど何も置けない。
こういった「魅せる」と「売る」のバランスをいかに保つか?という点が、非常に難しいと感じるでしょう。多くの場合は店長や本社VMDなどの判断を仰ぐことになりますが、自分で判断しなければいけない場面も多々あります。
VMDの仕事にはクオリティとスピードのバランス感覚が必要
上の件とも関係しますが、レイアウト変更は限られた時間の中で行う必要があるため、スピードが命です。
しかし、当然ながら同時にクオリティが求められます。
アイデアを瞬時に考えつく発想力と、VMD変更を時間内に終わらせるスピード感がの両方を身につけるためには、やはり経験が必要です。
「どうしようかな」と考える時間を極力減らして、考えながら手を動かさないといけません。
アシスタントがつくようになると、それに加えて「手を動かしながら指示を出す」という動きも必要になります。
本社VMDへのキャリアップが難しい
店舗付きでやっているスタッフは、キャリアパスが「店長や副店長か、本社VMDか」という二択になります。
ただ、店長・副店長はお店全体のマネジメントが必要なため、VMDのことばかりをやれるわけではありません。私もこの点で悩みました。
本社VMDの場合は、どのブランドもキャリアパスが狭く、限られた人員しかそのポジションには就けません。やはりVMDを志す者であれば、ブランドの世界観を作り出せる本社VMDは憧れのポジションですが、そこに至る道の険しさに苦労する人が多いです。
今のブランドでの昇進が難しい場合は、本社のVMDアシスタントとして他ブランドに転職して本社スタッフに潜り込んでしまう 笑 という方法が最も現実的です。このあたりは、過去にVMDの求人の探し方についての記事でかなり詳しく解説したので、興味のある方はご覧ください。
VMDの仕事は開店前・閉店後の作業がメインなので残業しがち
店内のレイアウト変更が発生するVMD業務は、お客様の邪魔にならないようにお店の営業中には行えません(閑散期などであれば営業中に行うこともありますが、あまりよろしくはないですね)。
開店前の作業はオープン時間との戦い、閉店後の作業は終電との戦いが待っています 笑
先ほどの、クオリティとスピードのお話にも関係しますが、自分の残業を減らすためにも、スキルをつけないといけません。
大型SPAは深夜勤務でVMDチェンジすることも
SPAブランドなど、店舗の規模が大きいブランドでは、商品量が桁違いのため、深夜シフトが組まれることもあります。
深夜の作業は、それはそれで変なテンションになって楽しい面もありますが 笑 眠気と戦いながらのきつい作業です。私はSPAで働いているときは週に1回は深夜シフトが入っていたのですが、生活リズムが崩れっぱなしでした。
甘くはないけど販売とは全く違う楽しみがあるVMD担当の仕事
VMDの仕事は、接客販売とはまったく違うスキルが必要な職務です。
厳しい面もありながら、ハマればその魅力にズブズブとはまってしまう仕事でもあります。
これからVMDを担当する人や、すでに経験をしている人など様々かと思いますが、ぜひVMD道を極めるべく邁進していただければ。